公開日:2021.12.09
2021年の前半ににんじんの壁紙をポテトで貼る未来を描いていた壁紙屋本舗は、それから半年も経たないこの秋に、FLAX WALLPAPER、Food Paperという100%植物由来の壁紙を相次いで発売しました。
2つの共通点は「土に還る」こと。
でも「土に還る壁紙」と言われても、ちょっとピンとこない。
地球に有意義な響きはあるけど、なぜピンとこないのか。
そこで今回「土に還る壁紙」を土に還しながら、「土に還る」について少し掘り下げて考えてみることにしました。
結果のご報告がおそらくずいぶん先になることについては、この場をお借りして先にお詫び申し上げます。
野菜壁紙と亜麻壁紙。ついでにフォークを埋めてみる。
埋めるもの
色々と前置きしたいお話はあるのですが、ひとまず先に壁紙を埋めてしまおうと思います。
今回埋めたのは、以下の3点。
左から、Food Paper(じゃがいも)の端切れ、FLAX WALLPAPER(印刷前)の端切れ、生分解性プラスチックのフォークです。
野菜の壁紙「Food Paper(フードペーパー)」の原材料は、和紙の原料である楮(こうぞ)と麻と野菜。
亜麻の壁紙「FLAX WALLPAPER(フラックスウォールペーパー)」の原材料は、亜麻とビスコースです。ビスコースとは、パルプを溶かした液体を繊維状に固化したもの。
いずれも、植物由来100%の素材です。
それぞれのアイテムについて、詳しくは以下の記事でご紹介しています。
ついでに、取り寄せたけどコロナのせいでしばらく日の目を見なさそうなイベント用食器サンプルの中から「生分解性プラスチックのフォーク」も一緒に埋めてみることにしました。
フォークの背に「Compostable(堆肥化できる)」と書いてありますが、見た目も触感も普通のプラスチック。こんなものがほんとうに土に還るのかと、内心みんなで怪しんでいた代物です。
生分解性プラスチックとは「分解されて自然に還るプラスチック」のこと。
最近聞くようになったバイオマスプラスチックは「原料に生物由来の資源を用いたプラスチック」のことで、実は定義が異なります。
今回埋めるフォークは100%植物由来の原料で、分解されて自然に還るプラスチック。
つまり、生分解性、かつ、バイオマスプラスチックのフォークです。
微生物のいる環境下できちんと分解されると、最終的には二酸化炭素と水になるらしい。
さあ、自然に還ってもらいましょう。
地球のために実験中
何かを埋めるにあたって絶対いりますよね、看板。
でも普段主にパソコンと向き合っている人間にとって、看板を作るという精神的ハードルは結構高かったのです。
ある日、通りかった店長・ハヤシに
と話した声に、助けてほしさがにじみ出ていたのでしょうか。
ものの5分後。
社内のどこぞやで木片を拾い集め、
と手渡されたのがこれ。
これ以上でもこれ以下でもだめ、という今回のミッションに完璧な具合の仕上がりに。
念のためいたずらっ子たちに掘り返されないためのワードを考え、最終「お墓」との二択から「地球のために実験中」に決定しました(どちらも良心に訴えかけるという意味で同義)。
これで準備は整いました。
いざ、埋める
ホンポがあるのは大阪市の大正区。海沿いです。
検証を決行するのは、姉妹店WALPA OSAKAの庭・通称「WALPARK(ワルパーク)」。
季節の植物が咲き誇るエリアから一歩退いた堤防の際で、今回のミッションを遂行することにしました。
2021年12月某日。
冬の海風がワルパークに吹き込む中、
土を掘り、
交代で掘り、
3つのアイテムを埋め、
看板も立てて、
ミッション完了。
タイムカプセルって埋めたことないですが、きっとこんな気分ではないかと想像します。
埋めている間に「土に還る」を考える。
「土に還る壁紙」とはじめに聞いたとき、どう思われましたか。
私の頭をよぎったのは、この自然派壁紙を貼って剥がすことはあっても、土に埋めることはないだろうということ。
私の身近な土といえば、現在自宅のベランダに放置しているプランター3つ。
そこに埋めてもよかったのですが、春になったらまたバジルとシソを植えなければいけないのでそれまでに分解されてくれないと困ります。
何かを土に埋めて分解した経験はないですが、確信がありました。
「春までには無理」と。
「土に還る壁紙」でも「土に還す」ことがなければ結局ゴミとして燃やされてしまうので、それってもしかして意味がない?と思ったのです。
それを回収する仕組みまで確立されていないと意味を成さないエコ素材って、たまにありますよね。
土に還るのが事実だとしても、それをキャッチコピーに掲げているだけでは形ばかりになってしまうのではないかと。
でもその後、学んでいくうちに分かりました。
土に埋めなくても「意味なくはない」ことを。
ここからは、そのお話をさせてください。
植物由来の素材を掘り下げる。
植物由来の素材は、なぜ地球にやさしいのか。
それは「土に還る」から。
これがここまでのお話。
ここからは「土に還る壁紙を土に埋めなかったとしても、地球にやさしいのはなぜか」というお話に移ります。
植物由来の原料。
その元となるのは、木や麻、野菜や果物などの植物です。素材の原料となるまで日光と二酸化炭素を栄養に、光合成をしながら育ちます。
収穫され、加工されて、製品になり、最終的には捨てられるでしょう。
ゴミとして捨てられた場合、多くは焼却処分されます。もちろん自然素材も、焼やすと二酸化炭素が出ます。
ただプラスチックなどの化学素材に比べ発熱量が小さく、ダイオキシン等の有害物質が放出されることもありません。
また植物は原料として加工されるまで、二酸化炭素を吸収しながら育ちます。
例えば杉の木約70本が1年間に吸収するCO2(二酸化炭素)の量は約1トン。これは日本⼈1⼈あたりの年間CO2排出量の約半分に相当するとされています。
つまり、焼却処分される際に放出する二酸化炭素量が、育つ間に吸収した二酸化炭素量と相殺されるため、プラスマイナスゼロ。
厳密にはプラスな場合もマイナスな場合もあるのでしょうが、二酸化炭素の排出量はそのように算出されているようです。
自然素材と対比され、今や諸悪の根源といわれんばかりのプラスチック素材。
日本で広く普及しているビニール壁紙の素材である塩化ビニールも、プラスチックの一種です。
問題にされているのは、焼却した場合の発熱量や有害物質だけではありません。製品としては重宝されるその優秀な耐久性が、ゴミになった途端、なかなか分解されないという難点に変わってしまいます。
例えば段ボールが通常1〜3年ほどで分解されるのに対し、ペットボトルは450年ほどかかると考えられています。
なかなか分解されないということは、埋め立て場所の問題や、海などの自然界に流出してしまった時に生態系へ与える影響が自然素材に比べて格段に大きいということです。
今回壁紙と一緒に埋めた、生分解性バイオマスプラスチックのフォーク。製品規格や気温、微生物の量といった環境によって左右されますが、土にそのまま埋めると約2〜5年でほぼ分解されます。コンポスト(熟成堆肥、温度75℃)などを使用した場合は、バクテリア・微生物の働きがより活発なため、台所用水切りネットの程度のものなら数日間でほとんど無くなってしまうそう。
優秀です。
ただこの生分解性プラスチックですら、海や川という環境下では分解速度が大きく落ちるようです。
課題がすべてクリアされたわけではないということですね。
多分、たまに掘り返す。
これまで私たちの生活を支えてきてくれた、安価で丈夫なプラスチックの恩恵を受け続ける未来は、持続不可能。
だから地球への負荷が少ない、自然素材の活用があちらこちらで模索されています。
でも、責務とはいえ。いえ、責務だからこそ。
つまらないのはいやですね。
楽しくてわくわくするようなインテリアを、そしてそれが地球にやさしいインテリアであることを、ホンポはこれからも目指します。
植物由来の素材が地球にやさしい理由がわかったので、今回残されたミッションはただ「待つ」のみ。
亜麻壁紙と、野菜壁紙と、生分解性バイオマスプラスチックのフォークが、分解され自然界に還っていく様を見届けなければなりません。
どのくらいで、どのような変化を見せてくれるのかが気になるところ。
なので多分、たまに掘り返す。
気長に待ちましょう、分解されるその日まで。
美味しいコーヒーでも飲みながら。
掘り返した結果発表!
掘り返したときの記録をまとめた記事はこちらから!最近ついに箱ワインデビュー。
ガラス瓶4本分のゴミが1枚の紙パックとビニールだけになり喜んでいたところ、酒量が増えていました(どれだけ飲んだか見えない落とし穴)。
植物由来の素材から作られるガラスですが、分解されるのに軽く100万年はかかるそう。