日本で古くから栄えた伝統工芸「和紙」。
インテリアに関わる和紙といえば襖紙や障子紙などが思い浮かびますが、家の内装材、つまり「壁紙」としても活用されていることをご存知でしょうか。
近年は、サスティナブルなインテリアづくりに最適なエコ素材としても注目されています。
今回ご紹介する和紙壁紙は、インテリアのアクセントとしても生かせるようアレンジされた「黒谷の丸だき和紙」。
温もりある風合い、やさしい手触りには自然素材特有の魅力があり、心安らぐ空間づくりに活用したいアイテムです。
一般的な壁紙とは異なるメリットや注意点があるため、事前にポイントを押さえておきましょう。
黒谷の丸だき和紙とは
京都の伝統工芸「黒谷和紙」
丸だき和紙のルーツは、京都で長い歴史を持つ伝統工芸品の「黒谷和紙」にあります。
約800年もの間、紙づくりの産地として栄えてきた京都府綾部市の北部に位置する黒谷。
長年培われてきた技術で職人が一枚一枚丁寧に「手漉き(てすき)」した和紙は、とても丈夫で強く、長持ちすることで知られています。
長期の保存にも耐えられることから、1994年に世界遺産として登録された二条城の障子など、京都の文化財にも使用されてきました。
また、海外の芸術作品やアートにも使用されるほか、フランスのルーブル美術館では修復用紙としても使われるなど世界でも高い評価を得ています。
原料の風合いを活かした、黒谷の丸だき和紙
そんな黒谷和紙の、作業工程の一部を省き作られたのが「丸だき和紙」。
壁紙屋本舗が制作を依頼したオリジナルの和紙壁紙です。
白い和紙を作るために欠かせない工程に、「かごぞろえ」や「みだし」という作業があります。
「かごぞろえ」とは、黒谷和紙の原材料である「楮(こうぞ)」の皮の不要な部分を取り除く作業のこと。
「みだし」は、「かごぞろえ」の後、残っている細かい塵などを除いていく作業のことです。
この途方もない作業をあえて省いたのが、丸だき和紙です。
本来なら取り除いてしまう部分まで「丸ごと炊いた」和紙なので、「丸だき和紙」と名付けました。
楮の皮をまるごとすべて使うことで、素材の表情がより生きる和紙壁紙になりました。
素朴な色合いや繊維の荒々しい表情がインテリアのアクセントになり、趣きある雰囲気をつくることができます。
エコな素材「楮(こうぞ)」
和紙の原料となる楮(こうぞ)は成長スピードが早く、伸びた枝を刈り取ると翌年また同じ長さまで枝が伸びる植物です。
木を枯らすことなく繰り返し原料を得ることができるため、環境を破壊することなく生産できるエコ素材として注目を浴びています。
丸だき和紙は、本来なら捨ててしまう部分まで原料として活用しているほか、植物由来100%なので廃棄の際に焼却してもカーボンニュートラル。
有害な物質を発生することもありません。
丸だき和紙のメリットと注意点
日本で広く普及している「ビニール壁紙」と、自然素材から作られた「丸だき和紙」は、内装材としての特徴が大きく異なります。
丸だき和紙は一般的な和紙壁紙と異なる点もありますので、使用する上でのメリットと注意点を押さえておきましょう。
◎ 丸だき和紙のメリット
◎ メリット・その1|有害物質ゼロの自然素材
ビニール壁紙は、ポリ塩化ビニル(PVC)のフィルムとパルプからなる複合製品。複合製品はリサイクルが難しく、その多くは破棄されているのが現状です。
また、ポリ塩化ビニル(PVC)は、化学物質過敏症の主要な原因物質として指摘されいる素材でもあります。
一方、自然素材100%で作られる丸だき和紙は、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドなどの有害な物質が発生せず、自然環境下で土に還ります。
環境にやさしいだけではなく、私たちの身体にもやさしい壁紙です。
◎ メリット・その2|自然素材のやさしい風合い
和紙は、無作為に並んだ繊維が光を乱反射させ、目から入る光の刺激を和らげてくれます。
他の内装材では表現できないような、やわらかく温かみのある空間づくりに最適です。
◎ メリット・その3|調湿効果
和紙は、調湿効果に優れた素材。
空気中の湿気を吸収し部屋の湿度を一定に保ちます。
丸だき和紙の注意点
注意点・その1|シミや汚れ、においが落ちにくい
無漂白で原料の色がそのまま生かされた丸だき和紙は、ベージュ系の色合いで繊維感のある素材。
一般的な和紙壁紙に比べると、汚れの目立ちにくいアイテムです。
丈夫で耐久性もありますが、コーティングの施されていない「紙素材」であることには変わりありません。
水がかかることにより剥がれやシミの原因となることがあるため、キッチンや洗面所など直接水がかかるような場所には不向きです。
また、和紙の特性上、食べ物の色素や油などの汚れや匂いが付着しやすく、一度付着すると拭き取りが困難。
ダイニングの食卓付近やトイレ、ペットや子どもと過ごす部屋など、汚れやにおいが気になる空間への使用も控えた方が無難でしょう。
注意点・その2|手漉き制作による色味や質感の違い
丸だき和紙は、自然素材を原料にした手漉き和紙のため、仕上がりの色味や質感に差が生じることがあります。
この手作りならではの味わいが丸だき和紙の良さでもありますが、壁全体を均一な色味や質感に仕上げたいという場合には注意が必要です。
注意点・その3|紫外線による色変化
ビニール壁紙にも日焼けは起こりますが、元々深い色味の丸だき和紙は、紫外線の影響で白っぽく褪色していく特徴があります。
下の画像をご覧ください。
(左)が元々の丸だき和紙で、(右)が日のよく当たる窓辺に2ヶ月ほど貼った丸だき和紙。
ほんの数ヶ月ではっきりと褪色が起きていることがわかります。
褪色後の方が好みという人もいるかもしれませんし、色の変化も味わいとして楽しめる場合もあるかもしれません。
ただ、日当たりの良い場所では短期間で褪色する可能性があることは予め押さえておきたいポイントです。
丸だき和紙の特性や注意点を理解して使用することで、施工後の後悔やトラブルを避けられるでしょう。
丸だき和紙の施工事例〜相性の良い空間や素材〜
黒谷の丸だき和紙は、どんな空間やインテリアのアイテムと相性が良いか、施工事例をご紹介します。
寝室やリビングに
黒谷の丸だき和紙は、寝室やリビングなど、ほっとくつろぎたい空間におすすめの壁紙です。
自然素材100%の素朴でやわらかい風合いが、ゆったりと時間の流れる空間づくりに一役買ってくれるでしょう。
自然素材との相性抜群
自然由来の和紙壁紙と植物や木目などのナチュラルなアイテムは、当然のことながら相性抜群。
竹やラタン、モルタルなどの石目の素材とも合わせやすい壁紙です。
アートパネルとして
壁紙として貼るだけでなく、アートパネルのようにして使うのもおすすめ。
存在感のある和紙のため、1枚を一角に飾るだけでお部屋に味わい深さがプラスされます。
丸だき和紙の施工方法
必要な施工道具
※のりつけに便利な糊つけセット(オリジナルペイントセット)や、壁紙施工道具7点セットもあります。
丸だき和紙のサイズとつなぎ目について
丸だき和紙のサイズ
大判のサイズですが、1枚で天井まで覆える大きさではないため、パッチワークのように継ぎ合わせて貼る方法で施工します。
手作業で製造している商品の特性上、寸法の誤差が±2cm程度発生します。
施工時のつなぎ目
和紙をお好みのサイズにカットしてから壁に貼ります。
つなぎ目をやさしく仕上げたい場合は水切り、シャープなつなぎ目にしたい場合はカッターでカットします。
- 水切りでカットした場合
和紙の折り目に水を含ませ、馴染ませてから引っ張るように手で裂く切り方です。
切り口が毛羽立つため、やわらかくぼやけたようなつなぎ目に仕上がります。
※詳しい方法はこちら >>
- カッターでカットした場合
定規などをガイドに、カッターでカットします。大きな繊維も含まれるためカッターの刃を小まめに折り、切りやすい状態を保ちましょう。
くっきりとしたシャープなつなぎ目に仕上がります。
もちろん、カットせずに販売サイズそのままでも貼ることができます。
貼る面積や場所に応じてアレンジしてみてください。
丸だき和紙の使用上の注意
- 貼り替えのために剥がすことはできますが、壁に細かい繊維が残る場合があるので完全に原状回復する必要がある賃貸住宅などでのご使用はお控えください。
- 木の硬い繊維が混在していることがあります。素手で和紙を撫でつける場合はご注意ください。
- 糊で施工した際、表面にシミができる場合があります。気になる方は両面テープでの施工をおすすめします。
施工の手順
水切りの方法
- 和紙を折ります。
- 刷毛やスポンジなどで折り目を濡らします。
- 2〜3分程度馴染ませてから引っ張るようにカットしていきます。
丸だき和紙の貼り方
- 必要量の水を測って糊を作ります。
- 壁をきれいに拭きます。
- カットした和紙の裏に糊を塗ります。
- 2分〜3分程度糊をなじませます。
- 下から上に向かって壁に貼っていきます。つなぎ目は少し重ねるのがおすすめ。
- 撫でバケを使って空気を抜きながら貼り進めます。
\ 完成 /
丸だき和紙の貼り方を動画でチェック!
丸だき和紙の貼り方は、動画でもご覧いただけます。
剥がす時の注意
ビニール壁紙の上に、水溶性の糊「ポテグル」で丸だき和紙を貼った場合、水で濡らすと剥がすことができます。
- 霧吹きや濡らしたスポンジで表面にたっぷり水分を含ませます。
- 5分〜10分程度おき、糊を柔らかくします。
- つなぎ目からゆっくりと剥がします。
ビニール壁紙の上に、剥がせる壁紙用のりを使って丸だき和紙を施工した場合、上記の手順で剥がすことはできますが壁に細かい繊維が残ることがあります。
原状回復が必要な賃貸住宅などでのご使用はお控えください。
おわりに 〜エコでサスティナブルなインテリアを目指して〜
あらゆるモノづくりや消費活動において、SDGsやサスティナブルというキーワードを避けては通れない時代になりました。
エコなインテリアと一口に言っても、その方向性や、得られる結果はさまざまです。
今回ご紹介した「黒谷の丸だき和紙」は、自然素材を、本来捨てられる部分まで活用した「素材そのものが地球にやさしい」壁紙。
壁紙屋本舗の敷地内に丸だき和紙を埋める実験を行ったところ、わずか1ヶ月ほどで土に還りました。
同時期に埋めた生分解性プラスチックは、1年以上が経過した今も原型の分かる状態。自然素材の分解スピードがいかに早いかが際立つ結果となりました。
これ以外にも、例えば「使い捨てではなく繰り返し使える」壁紙、デザイン部分だけをステッカーにすることにより「素材の面積を大幅に削減できる」ウォールステッカーなど、内装材におけるサスティナビリティの可能性も日進月歩で進化を続けています。
エコでサスティナブルなインテリアを目指したら、気に入るアイテムが見つからない。
…こういった閉塞感ではなく、どんな状況下であっても、インテリアを考えアイテムを選ぶ過程は楽しいものであってほしい。
そんな思いを胸に、壁紙屋本舗はこれからも、エコでサスティナブルなインテリアの可能性を探っていきたいと思います。